著書紹介

ここでは、これまでに刊行した著書や編集に関わった図書などを紹介していきます。これまで書いた論文などについては、Researchmapをご覧ください。なお、本のタイトルもしくは画像をクリックするとamazonの当該書籍のページに飛びます。

猫が歩いた近現代―化け猫が家族になるまで

猫が歩いた近現代:化け猫が家族になるまで従来の猫の歴史に関する書物は、有名人に愛された猫を取り上げたものか、前近代中心で近現代についてあまり深く記述されていないものかのどちらかでした。有名人とは比較的上流階級の人々であり、それだけでは「普通の猫」がどのように生きていたのかはわかりませんし、また猫の生活環境の変化がもっとも激しかったのは近現代という時代です。近現代史のなかでの猫のあり方を追わなければ、現在の人間と猫の関係がどのような歴史的経緯のもとで形づくられてきたのかということを知ることもできません。本書では、日本の近現代における猫をテーマに、化ける・祟(たた)るなど、江戸時代には狡猾(こうかつ)で恐ろしいイメージだった猫が、どのように今日の地位を獲得していったのかを描きました。文豪たちからの評価の多様性、ネズミ駆除での利用とその帰結、さらには虐待、軍用毛皮の供出、食糧難による猫食いなど猫にとっての苦難も含めて、日本近現代史における人間と猫の関係のあり方の変化を描きながら、人間社会のなかに猫の歴史を位置づけることを目指しました。

大隈重信―民意と統治の相克

大隈重信 - 民意と統治の相克 (中公叢書) 2017年2月中央公論新社発行。大隈重信の全生涯を描いた伝記です。従来の大隈重信の評伝の多くが大隈の顕彰を意図したものであったのに対し、本書は大隈の活動をあくまで史料に即して客観的に検証することを目指しました。その際、従来の歴史書が、大隈自身が文字を書かない人物で史料が少ないこともあり、大隈と政治的に対立していた人物の史料(たとえば佐佐木高行や原敬の日記など)や、出所の怪しい密偵情報(三島通庸関係文書や中山寛六郎関係文書など)に大きく依拠しているのに対し、本書ではそうしたバイアスがかかったり噂に類する誤情報が含まれている危険性のある史料はなるべく使用を避けました。内容上の特色としては、明治初期の大隈が、しばしば言われるような「国民的政治家」ではなく、中央集権的政府の確立を第一に考えていたこと、特に、明治一四年の政変が、従来言われているような、自由民権運動の盛り上がりに共感した大隈が薩長藩閥の打倒を企てたというものではなく、あくまで政府部内進歩派による主導権確立が目的であったことを明らかにしたことなどが、従来の一般的な叙述と異なる新たな大隈像を提示したものと考えます。またその後、議会開設以降の大隈が、次第に民意を重視する姿勢へと転換し、「国民的政治家」として自らを変革していき、にもかかわらず国民の圧倒的な支持をなかなか得られず、1907年に憲政本党の党首引退に追い込まれるまでの、これまで触れられることの少なかった大隈の長い野党時代についても多くの記述を割いている点で、従来の評伝に欠けている部分を補いえたと考えます。また大隈の政治的活動だけでなく、「東西文明の調和」の理念に代表される文明運動の諸活動についても、多くのページを割き、さらに晩年の大隈と元老との関係についても多く触れ、大隈の生涯にわたる政治姿勢の変化を追うことができるものとなっています。

西村茂樹研究―明治啓蒙思想と国民道徳論

西村茂樹研究―明治啓蒙思想と国民道徳論2009年12月思文閣出版発行。博士学位論文を刊行したものです。従来西村については、その思想における「保守性」と「進歩性」の同居という問題関心から着目され、そのどちらが「本質」なのかを問うという形で研究が行なわれてきました。しかし西村が明六社に加入した明治6年から、『日本道徳論』刊行まで14年、没するまで29年もの歳月が横たわっており、そうした歴史の流れを無視して西村の「本質」を探ろうとする手法では、極めて非歴史的な評価とならざるをえないと考えます。 本書では、研究者の側の主観的判断に陥りがちな「保守」「進歩」という二項対立的評価基軸を取り払った上で、時代状況の中での西村の問題意識の変遷と主張の展開を歴史的・実証的に跡付け、その上で西村の思想の明治啓蒙思想・国民道徳論の中での位置づけを明確にすることを目指しました。刊行にあたっては2009年度科学研究費補助金研究成果公開促進費の助成を受けることができました。

東京専門学校の研究―「学問の独立」の具体相と「早稲田憲法草案」

東京専門学校の研究―「学問の独立」の具体相と「早稲田憲法草案」 (早稲田大学学術叢書)2010年1月早稲田大学出版部発行。私の2冊目の単著です。2009年度早稲田大学学術出版書助成制度の交付を受け「早稲田大学学術叢書」シリーズの1冊として刊行されたものです。本書は、早稲田大学の前身・東京専門学校の歴史を、制度や機構の変遷ではなく、学生や講師たちの実践的な活動を追うことを通じて、明らかにしようとしたものです。『早稲田大学百年史』をはじめとするこれまでの研究は、資料的制約もあり当時の講義内容や学生の活動・気風・就職状況などにはあまり多くの記述が割かれていない憾みがありました。本書では、学生たちによって編まれた私擬憲法草案「早稲田憲法草案」をはじめ、多くの新史料を発掘しながら、東京専門学校の講師と学生の多彩な活動について解明し、そこにおける学風のあり方を明らかにしました。

明治期の天皇と宮廷

明治期の天皇と宮廷 2016年2月梓出版社発行。安在邦夫・真辺将之・荒船俊太郎編著。安在邦夫先生が、かつて早稲田大学社会科学研究所において組織されていた研究プロジェクトの30年ごしの成果論文集です。私はこのプロジェクトには加わっておりませんでしたが、安在先生の後任として文学学術院に着任した経緯もあり、最後の段階で加わらせていただき、序文を執筆、また論文「大隈重信の天皇論―立憲政治との関連を中心として―」を執筆しました。明治期の天皇の役割を、天皇自身や側近だけでなく、社会の側からも捉え直そうとしたもので、私の論文のほかには、明治天皇の政治・外交とのかかわりや、皇室外交儀礼、側近の輔弼者たる桂太郎や徳大寺実則、さらには在野の板垣退助の華族論や、自由民権家の女性天皇論に関する論文などが収められております。

近代日本の政党と社会

近代日本の政党と社会 2009年11月日本経済評論社発行。安在邦夫・真辺将之・荒船俊太郎編著。政党は、国家と国民、国家と社会とをむすぶ架け橋ともいうべき多様な役割を果たしていますが、本書はそうした政党の多様な側面を、政治史のみならず、思想史・文化史・地域史など多彩な視角から考察しようとした研究論文集です。安在邦夫先生の退職記念論集の意味も含めた研究論文集で、安在先生のゼミの2005年度から2007年度まで3年間の演習の成果物となっています。私は全体の編集を担当したほか、本書冒頭の「本書の課題と構成」および論文「政党認識における欧化と反欧化」を執筆しています。幸い、大変売れ行き好調で初版売り切れとなり、現在はオンデマンド版でのみ販売しているそうです。

高田早苗の総合的研究

高田早苗の総合的研究 2002年早稲田大学大学史資料センター発行。早稲田大学大学史資料センター編。1998年から2002年まで、私が大学史資料センター高田早苗研究部会担当として資料収集・編集を担当したもので、人生で初めて編集・執筆に携わった学術書として大変思い出深いものです。さまざまな分野の専門家が高田を多角的に掘り下げた論文13本が集められ、私は「高田早苗における『模範国民』」を執筆しました。また巻末の著作目録・関係文献目録・年譜の編集も私が担当しました。4年間をかけて編集したこれらの目録・年譜はきわめて詳細なもので、高田早苗研究だけでなく、広く日本近代史研究に役立つものになっていると思います。なお本書は早稲田大学創立125周年記念事業の一環として、大学よりの助成を受けて刊行されました。

大隈重信関係文書

大隈重信関係文書2004年~2015年。早稲田大学大学史資料センター編。早稲田大学中央図書館特別資料室所蔵「大隈文書」の大隈重信宛書翰を翻刻し、差出人名順に配列したものです。全11巻のうち、私は第4巻から第7巻までの翻刻・編集に携わりました。大隈宛書翰は戦前に日本史籍協会から『大隈重信関係文書』全6冊として刊行されていますが、それに収録されているのは全体からすれば一部分に過ぎませんでした。今回刊行する大隈重信関係文書は、日本人発信の書翰は原則すべて収録し、早稲田大学図書館所蔵大隈文書だけでなく、大学史資料センターや佐賀市大隈記念館に所蔵されている書翰も収録しています。本書も早稲田大学創立125周年記念事業の一環として、大学よりの助成を受けて刊行されています。